T-DXdのGrade 1 ILD:再開できる=安心ではない

使う場面処方監査化学療法室
30秒で要点
T-DXdのGrade 1 ILDは「見つけたら永久中止」ではありません。 無症候性Grade 1ではまず休薬し、Grade 0まで改善後に再開を検討できます。ただし2025年のプール解析では、再開45例のうち33.3%でILDが再発しました。再開可否だけでなく、再開後の監視計画まで確認します。
まずやること
画像上の新規陰影が疑われたら、症状の有無を確認し、T-DXdをいったん止めたうえでGradeを確定します。無症候性だから次回投与をそのまま実施、という処理をしないことが最優先です。
避けたい判断無症候性だから投与を続ける

なぜ重要?

T-DXdは複数のHER2関連腫瘍で重要な薬剤ですが、ILD/肺臓炎は投与継続を左右する有害事象です。FDAの2026年ラベルでは、無症候性Grade 1はGrade 0に改善するまで休薬し、発症から28日以内に改善すれば同用量、28日を超えて改善した場合は1段階減量して再開することが示されています。[2]

2025年の9試験・2145例のプール解析では、初回Grade 1 ILDが193例に認められ、そのうち45例がT-DXdを再開しました。再開後のILD再発は15/45例(33.3%)で、再発までの中央値は64日でした。再発はGrade 1が6例、Grade 2が9例で、Grade 3以上や死亡例はありませんでした。[1]

この結果は再開の選択肢を支持しますが、45例という限定された再開集団です。したがって『再開しても重症化しない』と一般化するのではなく、再開可能性と再発リスクを同時に扱う必要があります。[1]

Grade 1 ILD再開後の再発は約3分の1
33.3%vs 66.7%差 -33.4 pt
ILD再発33.3%
再発なし66.7%
Rugo HS, et al. Ann Oncol. 2025(再開45例の数値を基にヤクレンズ作図)。再開患者は選択された集団であり、全患者への安全性保証ではありません。 [1]
見落とし1無症候性だから投与を続ける
Grade 1は症状がないため、CTの軽い陰影を『経過観察』だけで済ませやすい場面です。しかしラベル上はGrade 0まで休薬が基本です。症状がないことと投与継続可能であることは同義ではありません。
見落とし2Grade 0になれば再開後は通常運転
再開後の約3分の1でILDが再発しています。再開処方が通った時点で監査を終えず、再開後早期の症状確認・画像フォロー・患者教育まで設計されているか確認します。
見落とし3Grade 2以上でも改善すれば再開できると思う
FDAラベルでは症候性Grade 2以上は永久中止です。Grade 1再開データをGrade 2以上へ外挿しないことが重要です。

判断フロー

1
新規肺陰影または呼吸器症状を認めたら、T-DXdを保留してILD評価を開始する。
2
無症候性Grade 1か、症候性Grade 2以上かを区別する。
3
Grade 1ならGrade 0まで休薬し、改善までの日数に応じて同用量または減量再開を検討する。
4
再開後は再発リスクを前提に、呼吸器症状と画像フォローの計画を確認する。
Grade 1 ILDでの再開判断の流れ
1
新規陰影を認めたらT-DXdを休薬しGradeを確定
2
無症候性Grade 1ならGrade 0まで改善を待つ
3
28日以内に改善:同用量、28日超:1段階減量を検討
4
再開後は再発を前提に症状・画像フォローを強化
FDA ENHERTU Prescribing Information 2026の投与変更表を基にヤクレンズ再構成。国内電子添文・施設手順を優先してください。 [2]

処方監査・病棟で見るポイント

  • 咳、息切れ、発熱、SpO2低下など症状の有無
  • CT画像での新規陰影とGrade評価
  • 休薬開始日とGrade 0までの改善日数
  • 28日以内か超過かによる再開用量の確認
  • ステロイド治療の要否と開始状況
  • 再開後の次回画像・症状評価のタイミング
この患者ならどう動く?

ケース:T-DXd投与中、定期CTで小範囲の新規すりガラス影。患者は無症状でSpO2も保たれている。次コースのオーダーがそのまま残っている。

薬剤師の次の一手:『無症状だから予定通り』ではなく、Grade 1 ILDとして休薬が必要かをまず確認します。Grade 0改善後に再開する場合も、改善までの日数に応じた用量と再開後の監視計画まで確認します。
日本で使うとき
国内電子添文と施設のILDマネジメント手順が優先されます。ここで示したFDAラベルの投与変更は、国内運用との相違がないか必ず照合してください。
エビデンスの強さ

中等度:承認ラベル+臨床試験プール解析

Grade別の投与変更は規制当局ラベルで明確です。再開後の再発については9試験を統合した解析で定量的な情報があります。[1][2]

限界:再開解析は45例と少なく、再開された患者は臨床的に選択された集団です。重症化リスクが低い患者に偏っている可能性があり、全患者への安全性保証ではありません。
ヤクレンズまとめ

T-DXdのGrade 1 ILDは、まず休薬してGrade 0まで改善させる。

再開は可能でも、プール解析では33.3%が再発。再開後こそ監視を強める。

Grade 2以上の再開へGrade 1のデータを流用しない。


参考文献

  1. Rugo HS, et al. Pooled analysis of trastuzumab deruxtecan retreatment after recovery from grade 1 interstitial lung disease/pneumonitis. Ann Oncol. 2025;36:1389-1399. PMID: 40769277. PubMed
  2. U.S. FDA. ENHERTU (fam-trastuzumab deruxtecan-nxki) Prescribing Information. 2026. Table: Dosage Modifications for ILD/Pneumonitis. FDA label

本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個別患者への適用は、最新の電子添文・ガイドライン・患者背景・施設ルールを確認して判断してください。