ICI倦怠感:TSHだけで終わらせずACTH・コルチゾールを見る

使う場面外来化学療法副作用評価処方監査救急対応
30秒で要点
ICI治療中の倦怠感を『甲状腺機能低下』だけで説明しない。 下垂体炎では続発性副腎不全が前景に出ることがあり、ACTHと早朝コルチゾールを同時に評価します。低Na、悪心、食欲低下、頭痛が重なるときは副腎クリーゼを見逃さないことが最優先です。
まずやること
ICI投与中に新規の倦怠感・食欲低下・低Na・低血圧があれば、早朝ACTH+コルチゾール、TSH+FT4、Na・K・血糖を確認します。甲状腺ホルモン補充を始める前に副腎不全が未評価なら、順序を立ち止まって確認します。
避けたい判断TSHだけを見て甲状腺機能低下と決める

なぜ重要?

ASCOガイドラインでは、ICI関連副腎不全・下垂体炎の評価として早朝ACTHとコルチゾール、TSHとFT4、電解質の確認が推奨されています。コルチゾール低値だけでは原発性か続発性かを区別できず、ACTHを同時に測ることが重要です。[1]

ICI下垂体炎はMRIが正常でも起こり得ます。83例の解析では、副腎軸の回復は観察期間中0%で、下垂体画像だけで除外できないこと、ホルモン軸ごとに回復性が異なることが示されました。[2]

甲状腺機能低下と副腎不全が併存する場合、未治療の副腎不全に甲状腺ホルモンを先行させると状態を悪化させる可能性があります。薬剤師は『TSH異常→レボチロキシン』の直線的判断を止める役割があります。[1][2]

ICI下垂体炎の発生率:治療法で差がある
併用療法13.7%
CTLA-4単剤1.9%
PD-1単剤1.2%
PD-L1単剤0.8%
839例の後ろ向きコホートで報告された治療法別の下垂体炎発生率。患者集団・薬剤構成が異なるため、個別患者の絶対リスクとしてそのまま用いない。 [2]
見落とし1TSHだけを見て甲状腺機能低下と決める
下垂体炎では中枢性甲状腺機能低下があり、TSHが低値~基準範囲でもFT4が低下することがあります。副腎軸も同時に評価します。
見落とし2MRIが正常なので下垂体炎を除外する
ICI関連下垂体炎は画像変化が乏しい例があります。症状とホルモン所見を重視します。
見落とし3副腎不全未評価のまま甲状腺ホルモンを先行する
副腎不全が疑われる場合は、ステロイド補充の必要性を先に評価するのが安全です。

判断フロー

1
ICIの種類・投与サイクル・最近のステロイド投与歴を確認する。
2
ACTHと早朝コルチゾールを同時採血し、TSHとFT4もセットで見る。
3
低Na、低血圧、嘔吐、意識変容があれば副腎クリーゼを想定して緊急度を上げる。
4
ホルモン補充開始後も、ICI再開可否と長期補充のフォロー計画を確認する。

処方監査・病棟で見るポイント

  • ICI薬剤・併用療法
  • ACTH・早朝コルチゾール
  • TSH・FT4
  • Na・K・血糖
  • 直近の外因性ステロイド
  • 頭痛・視野症状
  • 低血圧・嘔吐・意識変容
この患者ならどう動く?

ケース:ニボルマブ治療中。倦怠感と食欲低下が増え、Na 128mEq/L。TSHは基準範囲内で、甲状腺は問題なしとして次コース予定になっている。

薬剤師の次の一手:TSH単独で終了せずFT4、早朝ACTH・コルチゾール、血糖・電解質を追加確認します。低コルチゾールを認める場合は下垂体炎/続発性副腎不全を疑い、治療継続前に担当医・内分泌へ共有します。
日本で使うとき
国内の各ICI電子添文では内分泌障害が重大な副作用として扱われています。実務では施設のirAEパスと内分泌科連携を優先し、重症時は検査完了を待って対応を遅らせないことが重要です。
エビデンスの強さ

中等度:専門学会ガイドライン+複数コホート

ASCOの臓器別irAE管理指針が診断手順を提示し、実臨床コホートでも下垂体炎・副腎軸障害の頻度と回復パターンが報告されています。[1][2][3]

限界:診断閾値は採血時刻、外因性ステロイド、急性疾患の影響を受けます。ACTH刺激試験も発症早期の続発性副腎不全では偽陰性になり得るため、内分泌学的評価が必要です。
ヤクレンズまとめ

ICIの倦怠感+低Naは副腎不全を必ず候補に入れる。

ACTHと早朝コルチゾールは同時に採る。

TSHだけ・MRIだけで下垂体炎を除外しない。


参考文献

  1. Schneider BJ, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021. PMID: 34724392. PubMed
  2. Immune checkpoint inhibitor related hypophysitis: diagnostic criteria and recovery patterns. PMID: 33890870. PubMed
  3. PMDA. オプジーボ点滴静注 医療用医薬品情報・電子添文等. PMDA

本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個別患者への適用は、最新の電子添文・ガイドライン・患者背景・施設ルールを確認して判断してください。