使う場面入院時持参薬周術期管理救急処方監査
30秒で要点
SGLT2阻害薬は『血糖が高くないからDKAではない』が通用しません。 絶食、手術、急性疾患ではeuglycemic DKAを起こし得るため、予定手術では事前休薬を確認し、術後は食事・循環動態・ケトーシスリスクが安定してから再開します。
まずやること
入院時持参薬にSGLT2阻害薬があれば、手術・絶食予定、最終服用時刻、糖尿病の有無、脱水、感染、インスリン不足、悪心・腹痛・呼吸苦を確認します。症状があれば血糖値が高くなくてもケトン体と酸塩基平衡を評価します。
避けたい判断血糖が200未満だからDKAを除外する
なぜ重要?
FDAのエンパグリフロジン添付文書では、可能であれば手術または長時間絶食を伴う処置の少なくとも3日前から休薬し、臨床的に安定して経口摂取が再開してから再開するよう記載されています。[1]
SGLT2阻害薬関連DKAでは血糖が250mg/dL未満でも発症し得るため、血糖だけで除外すると診断が遅れます。術後の悪心、腹痛、倦怠感、呼吸促迫を『術後症状』で片づけないことが重要です。[1][2]
一方、心不全・CKDに対するベネフィットも大きいため、漫然と長期間中止するのも望ましくありません。休薬だけでなく、いつ安全に再開するかまで薬剤師が退院・術後計画に入れる必要があります。[2]
予定手術のSGLT2阻害薬チェック
見落とし1血糖が200未満だからDKAを除外する
SGLT2阻害薬関連DKAは著明な高血糖を欠くことがあります。症状とケトン・酸塩基平衡を見ます。
見落とし2手術当日の朝だけ止めればよいと考える
薬効とケトーシスリスクは服用中止後もしばらく続き得ます。予定手術では製剤ごとの推奨休薬期間を確認します。
見落とし3術後に食事が始まった瞬間に自動再開する
循環動態、感染、脱水、ケトーシス、インスリン不足が残っていないかまで確認します。
判断フロー
1
持参薬・薬歴からSGLT2阻害薬を拾い上げる。
2
予定手術では最終服用時刻と休薬期間を確認する。
3
緊急手術や休薬不足では、術後のケトン・酸塩基平衡監視を強める。
4
再開は経口摂取、循環動態、脱水・感染、ケトーシスリスクが安定してから判断する。
処方監査・病棟で見るポイント
- ✓SGLT2阻害薬名
- ✓最終服用時刻
- ✓手術・絶食予定
- ✓糖尿病/心不全/CKD適応
- ✓ケトン体
- ✓anion gap・HCO3−
- ✓脱水・感染
- ✓再開条件
この患者ならどう動く?
ケース:ダパグリフロジン内服中の患者が緊急手術。術後、血糖165mg/dLだが悪心・頻呼吸があり『血糖は高くない』として経過観察になっている。
薬剤師の次の一手:SGLT2阻害薬関連euglycemic DKAを鑑別に入れ、血中/尿ケトン、anion gap、HCO3−/血液ガスの確認を提案します。薬剤は中止し、全身状態が安定するまで再開しません。
日本で使うとき
国内では各SGLT2阻害薬の電子添文と施設の周術期休薬基準を確認してください。海外ラベルの『3日前』を全製剤に機械的に適用せず、製剤ごとの差と患者の心不全・CKD適応も踏まえます。
エビデンスの強さ
中等度:規制当局ラベル+大規模観察研究
FDAラベルは周術期の一時中止を明示し、大規模データでも周術期DKAリスクが検討されています。[1][2][3]
限界:最適な休薬日数と心不全イベントのバランスには不確実性が残り、緊急手術では予定休薬を実施できません。製剤・適応・施設プロトコルに沿った個別管理が必要です。
ヤクレンズまとめ
SGLT2阻害薬では正常~軽度高血糖でもDKAを疑う。
休薬は『当日朝だけ』でなく製剤別の推奨期間を確認。
再開条件まで決めて初めて周術期薬剤管理が完結する。
参考文献
- FDA. JARDIANCE (empagliflozin) Prescribing Information, 2025. Section 2.3 Temporary Interruption for Surgery. FDA
- Preoperative SGLT2 Inhibitor Use and Postoperative Diabetic Ketoacidosis. PMID: 39969891. PubMed
- PMDA. ダパグリフロジン錠 医療用医薬品情報・電子添文等. PMDA
本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個別患者への適用は、最新の電子添文・ガイドライン・患者背景・施設ルールを確認して判断してください。