使う場面化学療法室病棟処方監査
30秒で要点
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与中の新規高血糖は、ステロイドや食事だけで説明せず、急速なインスリン分泌低下によるICI関連糖尿病を考えます。口渇、多尿、悪心、倦怠感を伴う場合は血糖だけでなくケトン体、酸塩基平衡、電解質を確認し、DKAを早期に除外することが薬剤師の重要な安全確認です。
まずやること
ICI投与中に高血糖や口渇・多尿・悪心が出たら、直近の血糖推移、ICI投与時期、ステロイド投与、既往糖尿病を確認し、ケトン体と酸塩基平衡を含むDKA評価が行われているか確認します。重症症状やケトーシスがあれば次回外来を待たず、糖尿病・内分泌チームへ緊急評価をつなぎます。
避けたい判断ステロイド高血糖だけで説明する
なぜ重要?
ICI関連糖尿病は頻度こそ高くありませんが、発症時にDKAを伴う例が多く、通常の2型糖尿病のような緩徐な悪化を前提にすると初動が遅れます。2026年のメタ解析ではICI関連1型糖尿病の統合発症率は0.58%で、発症例のおよそ37%がDKAで受診していました。[1]
日本内分泌学会の指針はICI開始後の各受診時に血糖を確認し、著明な血糖上昇があれば早期に専門科へつなぐことを推奨しています。症状が軽くても、短期間でインスリン分泌が失われる可能性を念頭に置く必要があります。[1]
HbA1cは直近数週間の平均を反映するため、急速発症では高血糖の重症度に比べて上昇が目立たないことがあります。HbA1cが極端に高くないことを理由に急性のICI関連糖尿病を否定してはいけません。[1]
ICI関連糖尿病そのものに高用量ステロイドを投与して膵β細胞機能を戻す根拠は乏しく、まずDKAの有無とインスリン不足を評価して適切な糖尿病治療へつなぐことが中心になります。[1]
見落とし1ステロイド高血糖だけで説明する
ICI治療では制吐やirAE治療でステロイドが併用されることがありますが、口渇・多尿・ケトーシスを伴う急激な悪化はICI関連糖尿病も同時に評価します。
見落とし2HbA1cが低めなので様子を見る
急速発症ではHbA1cが現在の高血糖を十分反映しません。血糖の時間変化、ケトン体、酸塩基平衡を優先し、平均値だけで緊急度を下げません。
見落とし3次回外来まで血糖だけ追う
悪心、腹痛、脱水、呼吸異常、意識変化があればDKAの可能性があります。外来フォローの予定があっても、急性代謝失調はその場で評価につなげます。
判断フロー
1
ICIの最終投与日と血糖の前回値・今回値、糖尿病歴、ステロイドなど高血糖を来す併用薬を確認する。
2
口渇、多尿、体重減少、悪心、腹痛、過換気など急性インスリン不足を示す症状の有無を確認する。
3
高血糖に急性症状があれば血中または尿中ケトン、電解質、酸塩基平衡が評価されているか確認しDKAを除外する。
4
ICI関連糖尿病が疑われれば糖尿病・内分泌科へ早期に連携し、インスリン治療とICI継続可否を全身状態に応じて検討する。
処方監査・病棟で見るポイント
- ✓ICIの種類、開始日、直近投与日と、血糖が上昇し始めた時期を時系列で確認する。
- ✓制吐薬・irAE治療などで投与されたステロイドの有無と投与量変更を確認する。
- ✓血糖、HbA1cだけでなく、ケトン体、Na/K、重炭酸、血液ガスなどDKA評価に必要な検査を確認する。
- ✓口渇、多尿、悪心、腹痛、呼吸異常、意識変化など急性代謝失調を示す症状を確認する。
- ✓既往糖尿病、膵疾患、最近の感染症など別の高血糖要因も同時に確認する。
- ✓ICI関連糖尿病が疑われた場合に糖尿病・内分泌科へ当日中に連携できる体制を確認する。
- ✓患者へ高血糖症状と緊急受診が必要な症状を説明し、次回採血だけに安全確認を委ねない。
この患者ならどう動く?
ケース:67歳、肺癌で抗PD-1抗体を開始して8週。糖尿病歴はなく、前回随時血糖118 mg/dLだったが、今回は血糖356 mg/dL。ここ数日で口渇、多尿、全身倦怠感と食欲低下があり、制吐目的の少量ステロイド以外に大きな薬剤変更はない。HbA1cは7.1%で、次回診察は1週間後に予定されている。
薬剤師の次の一手:HbA1cが著しく高くないことやステロイド併用を理由に待機せず、急速なICI関連糖尿病を疑います。ケトン体、血液ガス、電解質を含むDKA評価を当日行うよう提案し、糖尿病・内分泌科へ連携します。脱水やケトーシスがあれば緊急治療を優先し、ICIの扱いは全身状態が安定してから主治医と再評価します。
実務上の注意
具体的な用量、禁忌、休薬、採血時期は製剤・適応・患者背景で異なります。実患者では最新の国内電子添文、ガイドライン、施設手順を確認し、この記事だけで個別の用量変更を確定しないでください。
エビデンスの強さ
中等度:国内学会ガイドライン+近年の系統的レビュー
日本内分泌学会のICI内分泌irAEガイドラインは各受診時の血糖確認と高血糖時の早期専門科連携を明示しています。2026年の系統的レビュー・メタ解析では65,925例を含む10研究からICI関連1型糖尿病の統合発症率0.58%、発症例の約37%でDKAが報告され、急性発症を前提とした監視の必要性を支持します。[1][2]
エビデンスの解釈上の注意点:ICI関連糖尿病は稀で、研究の多くは観察研究や症例集積です。発症予測因子や最適なスクリーニング間隔には不確実性があり、個々のICIや併用治療に応じて国内電子添文・施設手順も確認します。
ヤクレンズまとめ
ICI中の急な高血糖は、ステロイド高血糖だけでなくICI関連糖尿病を考える。
口渇・悪心・脱水を伴えば血糖だけでなくケトンと酸塩基平衡を確認してDKAを先に除外する。
HbA1cが極端に高くなくても急速発症は否定できず、専門科への早期連携を遅らせない。
参考文献
- 日本内分泌学会. Management of immune-related adverse events in endocrine organs induced by immune checkpoint inhibitors. Endocr J. 2019. PubMed
- Immune checkpoint inhibitor-induced type 1 diabetes mellitus: incidence, risk factors, and prognostic implications – systematic review and meta-analysis. 2026. PubMed
ARTICLE-END QUIZ
理解度チェック
記事で学んだ内容を、実際の患者・処方に当てはめて判断してみてください。まず1つ選び、選択肢を開くと判定と解説が表示されます。
問1
ICI開始8週の患者。前回まで正常だった血糖が356 mg/dLとなり、口渇・多尿・悪心が出現している。HbA1cは7.1%で、少量ステロイドも使用している。 この状況で処方を継続する前に、薬剤師が追加評価すべき点が残っています。
この時点で薬剤師が最優先で追加確認・提案すべき対応はどれか。
Aステロイド高血糖と考え、次回外来まで自己血糖だけ追加して経過を見る。
× 不正解
症状を伴う急な高血糖ではDKAを先に除外する必要があり、本文の初動に一致します。
解説:ICI投与中の急激な高血糖に口渇・多尿・悪心が加わる場合、ICI関連糖尿病とDKAを優先して評価します。ステロイド併用やHbA1cは鑑別材料ですが、急性代謝失調を除外する理由にはなりません。
[1][2]
BICI関連糖尿病を疑い、ケトン体・酸塩基平衡・電解質を含むDKA評価を当日行うよう提案する。
○ 正解
ステロイドは鑑別ですが、急速なICI関連糖尿病とDKAを評価しないまま待機するのは不適切です。
解説:ICI投与中の急激な高血糖に口渇・多尿・悪心が加わる場合、ICI関連糖尿病とDKAを優先して評価します。ステロイド併用やHbA1cは鑑別材料ですが、急性代謝失調を除外する理由にはなりません。
[1][2]
CHbA1cが高度上昇していないため急性糖尿病は否定的と考え、予定どおりICIを継続する。
× 不正解
急速発症ではHbA1cが現在の重症度を十分反映しないため、HbA1cだけで否定できません。
解説:ICI投与中の急激な高血糖に口渇・多尿・悪心が加わる場合、ICI関連糖尿病とDKAを優先して評価します。ステロイド併用やHbA1cは鑑別材料ですが、急性代謝失調を除外する理由にはなりません。
[1][2]
本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個別患者への適用は、最新の電子添文・ガイドライン・患者背景・施設ルールを確認して判断してください。