使う場面調剤病棟注射薬監査医療安全
30秒で要点
PMDA医療安全情報には、インスリン7単位を準備する場面でインスリン専用注射器を使わず汎用注射器を用い、7 mL、すなわち700単位を準備してしまった事例が掲載されています。ポイントは計算能力ではなく、インスリンが『単位』で指示される薬であるのに、mL目盛りの器具へ変換した瞬間に100倍規模のエラーが成立したことです。薬剤師の介入点は、バイアル製剤を扱う時点で専用注射器を使わせる環境を作り、単位からmLへの暗算・手変換そのものを工程から減らすことです。
まずやること
インスリンバイアルから調製する指示を見たら、処方単位数だけでなく『誰が、どの器具で、どこで調製するか』を確認します。汎用mL注射器を使う運用が残っていれば、その場のダブルチェックに依存せずインスリン専用注射器を標準化し、バイアル保管場所と専用注射器の配置、注意表示までセットで見直します。
避けたい判断7単位なら少量なので重大事故にはならないと考える
なぜ重要?
PMDAが公表した実例では、インスリン7単位を準備するところ、汎用注射器を用いて7 mL、700単位を準備してしまいました。インスリン100単位/mLでは7単位は0.07 mLですが、単位をmLへ読み替える工程が入ると桁違いの誤りが生じます。[1]
PMDAは2026年4月にもNo.73として、インスリン専用注射器を使わず単位換算を誤った医療事故・ヒヤリハットが繰り返し報告されていると再度注意喚起しました。古い事例だから解決済みではなく、器具選択の誤りは現在も再発防止が必要なテーマです。[2]
『看護師が最後に気づく』『二人で確認する』だけでは、同じ思い込みを共有すると突破されます。バイアルの近くに専用注射器を置く、汎用注射器を選びにくくする、単位表記を維持するなど、エラーが成立しにくい物理的・運用的な設計が重要です。[1][2]
薬剤師は処方内容だけでなく、調製器具と手順まで薬物療法の安全性として扱えます。特に救急・病棟でバイアル製剤を臨時使用するとき、普段インスリンを扱わないスタッフが担当する状況は高リスクです。[1][2]
見落とし17単位なら少量なので重大事故にはならないと考える
問題は指示量の小ささではなく、単位をmLとして扱うことで100倍の量が準備され得ることです。インスリンでは器具選択そのものを最初の安全確認にします。
見落とし2換算表を置けば汎用注射器でも安全と考える
換算工程が残る限り、思い込みや桁の誤りが入り込む余地があります。原則としてインスリン専用注射器を使用し、単位表記のまま調製できる仕組みを優先します。
見落とし3ダブルチェックがあれば器具の標準化は不要と考える
二人が同じ誤認をすると確認は突破されます。専用注射器の配置、保管場所の注意表示、教育、例外運用の管理など多層的な対策を組み合わせます。
判断フロー
1
インスリンバイアルの指示を確認したら、処方量が『単位』で明確に記載され、mL表記へ不要に変換されていないか確認する。
2
調製担当者がインスリン専用注射器を選択できる環境か、バイアルと専用注射器の保管場所・在庫・表示を確認する。
3
汎用注射器を使う例外運用が見つかった場合は、その場の注意だけで済ませず、なぜ専用器具を使えなかったかを工程として分析する。
4
実施前には単位数、製剤濃度、器具目盛りを独立して確認し、疑義があれば投与工程へ進めず薬剤部・医師・看護師で再確認する。
5
事例後は個人注意で終わらせず、専用注射器の標準配置と教育、臨時使用時の手順を院内ルールへ反映し再発を監視する。
処方監査・病棟で見るポイント
- ✓インスリン指示が単位で明確に記載されているか
- ✓製剤濃度とバイアル製剤であることの確認
- ✓インスリン専用注射器を使用する運用か
- ✓汎用mL注射器が選ばれる例外工程の有無
- ✓専用注射器がバイアル近くに配置されているか
- ✓調製担当者が単位とmLの違いを理解しているか
- ✓ダブルチェックが独立確認として機能しているか
- ✓救急・夜間など臨時調製時の手順が定められているか
- ✓ヒヤリハット後に環境・手順まで修正されたか
この患者ならどう動く?
ケース:公表実例:インスリン7単位を準備する必要があった。担当者はインスリンを扱うことが初めてで、インスリン専用注射器があることを知らず汎用注射器を使用し、7 mL、すなわち700単位を準備してしまった。PMDAはこの事例を、単位とmLの誤認による重大な投与量エラーの注意喚起として掲載した。
薬剤師の次の一手:薬剤師が止めるべき最初の地点は計算結果ではなく器具選択です。バイアル使用時はインスリン専用注射器を使うことを院内標準とし、保管場所を近接させ、冷蔵庫やトレイにも注意表示を置きます。汎用注射器を使う場面が残るなら、その理由を特定して工程を改修し、単位からmLへの手変換をできるだけ排除します。
7単位が700単位になるまでのエラー連鎖
指示
インスリン7単位を準備
指示は『単位』で出ている
器具選択
汎用mL注射器を使用
インスリン専用注射器を選ばなかった
誤変換
7を7mLとして扱う
100単位/mL製剤では700単位に相当
準備
7mL=700単位を準備
PMDA公表事例ではここまでエラーが進行
阻止点
専用注射器を標準化
単位目盛りで調製し、mLへの手変換を工程から減らす
PMDA医療安全情報No.23改訂版およびNo.73を基に再構成した実例の工程図。公表資料が『準備』と記載する部分を投与済みとは表現していない。 [1][2]
実務上の注意
本記事はPMDA公表の実事例を教育目的に再構成しています。公表資料が『700単位を準備してしまった』とする部分について、投与されたとは断定していません。各施設では採用製剤・調製場所・器具供給体制に合わせて、インスリン専用注射器を確実に使用できる仕組みを整備してください。
[1][2]
エビデンスの強さ
高:PMDA医療安全情報に基づく実事故・ヒヤリハット再発防止
PMDA医療安全情報No.23改訂版には、インスリン7単位を準備する際に汎用注射器を用い7 mL(700単位)を準備した具体的事例が掲載されています。さらに2026年のNo.73でも、専用注射器を使わない単位換算エラーによる医療事故・ヒヤリハットが繰り返し報告されているとして、専用注射器の使用を改めて求めています。[1][2][3]
エビデンスの解釈上の注意点:公表資料は個別事例の全臨床経過や施設背景を詳細には示しておらず、発生頻度や特定対策単独の効果量を評価する研究ではありません。したがって対策は専用器具の使用を中心に、保管・表示・教育・独立確認を施設環境に合わせて多層化します。
ヤクレンズまとめ
インスリンバイアルでは『単位』と『mL』を同じ数字として扱わない。
最も強い対策は計算注意ではなく、インスリン専用注射器で単位目盛りのまま調製する工程にすること。
実例は7単位→7mL→700単位の準備まで進んだ。個人注意で終わらせず器具配置と運用を変える。
参考文献
- PMDA. 医療安全情報 No.23改訂版 インスリン注射器の使用徹底について, 2020. PMDA
- PMDA. 医療安全情報 No.73 インスリン専用注射器の使用について―投与量の誤りが重大な健康被害につながるおそれがあります, 2026. PMDA
- PMDA. インスリン注射器の使用徹底に関するPMDA医療安全情報の改訂について. PMDA
ARTICLE-END QUIZ
理解度チェック
記事で学んだ内容を、実際の患者・処方に当てはめて判断してみてください。まず1つ選び、選択肢を開くと判定と解説が表示されます。
問1
病棟でインスリンバイアルから7単位を調製する指示が出た。担当者はインスリン専用注射器が見つからず、手元の1mL汎用注射器で換算して準備しようとしている。ダブルチェック担当者も同じ方法を提案している。
薬剤師が最優先で行うべき介入として最も適切なのはどれか。
A二人で計算すれば安全性は確保できるため、汎用注射器を使って単位をmLに換算して調製を続ける。
× 不正解
同じ誤認を共有するとダブルチェックでも突破されます。専用注射器を使う工程へ戻す必要があります。
解説:PMDAの公表事例では7単位の指示に対し汎用注射器を使い、7 mL=700単位を準備するエラーが起きています。最優先は換算を上手にすることではなく、調製を止めてインスリン専用注射器を使う標準工程へ戻すことです。ダブルチェックはその上に重ねる対策です。
[1][2]
B7単位は少量なので重大事故にはなりにくいと判断し、汎用注射器で7の目盛りを目安に準備する。
× 不正解
汎用注射器はmL目盛りであり、数字を単位と同一視すると桁違いの過量につながります。
解説:PMDAの公表事例では7単位の指示に対し汎用注射器を使い、7 mL=700単位を準備するエラーが起きています。最優先は換算を上手にすることではなく、調製を止めてインスリン専用注射器を使う標準工程へ戻すことです。ダブルチェックはその上に重ねる対策です。
[1][2]
C調製を止めてインスリン専用注射器を確保し、単位目盛りで準備できる手順へ戻してから再開する。
○ 正解
単位からmLへの不要な変換を工程から外し、専用注射器を使用することが再発防止の中心です。
解説:PMDAの公表事例では7単位の指示に対し汎用注射器を使い、7 mL=700単位を準備するエラーが起きています。最優先は換算を上手にすることではなく、調製を止めてインスリン専用注射器を使う標準工程へ戻すことです。ダブルチェックはその上に重ねる対策です。
[1][2]
本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個別患者への適用は、最新の電子添文・ガイドライン・患者背景・施設ルールを確認して判断してください。