インスリン製剤:超速効型と持効型をまずどう見分ける?

使う場面処方監査病棟服薬指導
30秒で要点
インスリン製剤を覚えるときは商品名の暗記より、まず『食事に合わせるインスリン』と『食事がなくても必要な基礎インスリン』に分けます。超速効型・速効型は主に食後血糖を抑え、持効型・中間型は肝糖産生を抑えて空腹時血糖を支えます。したがって絶食になった患者で、食前インスリンと基礎インスリンを同じように全部中止するのは危険です。
まずやること
インスリン処方を見たら、製剤名を『基礎』『食事』『補正』の役割に置き換え、現在の食事摂取量と血糖推移を確認します。食止め・検査・手術予定がある場合は、食事分インスリンをどうするかと基礎インスリンをどこまで残すかを別々に考えます。
避けたい判断絶食だからインスリンを全部止める

なぜ重要?

生理的なインスリン分泌には、食事に関係なく肝糖産生を抑える基礎分泌と、食事による血糖上昇に反応する追加分泌があります。基礎ボーラス療法はこれを基礎インスリンと食事インスリンに分けて再現する考え方です。この役割を理解すると、製剤変更や絶食時でも何を残すべきか考えやすくなります。[1]

ADA 2026では、入院中の非重症患者で経口摂取が乏しい場合は基礎インスリン+補正、食事摂取が十分な場合は基礎+食事+補正を基本としています。つまり『食べないからインスリン全部中止』ではなく、糖尿病型、普段の総投与量、血糖、低血糖リスクを見ながら役割ごとに調整します。特に1型糖尿病では基礎インスリンの完全中断がケトアシドーシスにつながり得ます。[2]

低血糖の原因分析でも役割分けが有用です。食後数時間の低血糖なら食事インスリン量や食事摂取を、夜間・空腹時の低血糖なら基礎インスリン過量を疑います。腎機能低下、高齢、食欲低下、ステロイド減量などインスリン必要量を変える因子も同時に確認します。[1][2]

見落とし1絶食だからインスリンを全部止める
食事インスリンは不要になっても、基礎インスリンは別の役割があります。特に1型糖尿病で基礎インスリンを完全中断すると高血糖・ケトーシスの危険があります。
見落とし2血糖が高いので基礎インスリンだけを増やす
空腹時は良好で食後だけ高い場合、基礎量を増やすと夜間低血糖を起こす可能性があります。どの時間帯で高いかを見て食事分と基礎分を分けます。
見落とし3商品名だけで作用時間を思い込む
配合製剤や濃度違い、超速効型の種類などで運用は異なります。薬剤名に加えて投与時刻と目的を確認し、院内採用製剤の作用特性を整理します。

判断フロー

1
インスリン製剤を基礎・食事・補正の役割に分類する。
2
現在の食事摂取、絶食予定、血糖推移、糖尿病型を確認する。
3
低血糖・高血糖が起こる時間帯から、どの成分を調整すべきか考える。
4
腎機能、ステロイド投与量、感染、栄養法の変化を確認して再調整する。

処方監査・病棟で見るポイント

  • 1型か2型か、普段の治療法
  • 各インスリンの役割と投与時刻
  • 食事摂取率と絶食・検査予定
  • 空腹時・食前・食後・夜間の血糖パターン
  • 低血糖の時刻と症状
  • 腎機能と急な悪化の有無
  • ステロイド、感染、経管栄養など血糖を変える因子
  • 退院時に患者が製剤と役割を区別できるか
この患者ならどう動く?

ケース:1型糖尿病でグラルギン就寝前18単位、リスプロ各食前6単位を使用中。翌朝の内視鏡のため夕食後から絶食となり、『絶食中はインスリン中止』という指示が入力された。夜間血糖は168 mg/dLで、過去に基礎インスリン中断時のケトーシス歴がある。

薬剤師の次の一手:食事インスリンと基礎インスリンを同一に扱わないよう疑義照会します。食前リスプロは食事状況に合わせる一方、グラルギンは1型糖尿病の基礎インスリンとして一定量が必要です。施設の周術期・絶食時プロトコルに沿って基礎量を調整し、血糖・ケトン監視と補正指示を確認します。
実務上の注意
具体的な減量率は糖尿病型、普段の総投与量、絶食時間、手術侵襲、血糖値、施設プロトコルで異なります。本記事はインスリンの役割分けを理解するための基礎です。
エビデンスの強さ

高:ADA 2026診療標準

ADA 2026は1型糖尿病で基礎+食事インスリンを基本とし、入院患者でも食事摂取に応じて基礎+補正または基礎+食事+補正を推奨しています。生理的役割に沿った構成は低血糖を避けながら血糖管理を行う基本です。[1][2][3]

エビデンスの解釈上の注意点:製剤ごとの作用時間には個人差があり、腎機能、栄養、ステロイド、急性疾患で必要量は大きく変化します。一般的な役割分類だけで具体的な単位数を決めることはできません。
ヤクレンズまとめ

インスリンは商品名より『基礎・食事・補正』の役割で考える。

絶食時は食事インスリンと基礎インスリンを別々に調整する。

低血糖の時間帯から、どの成分が過量かを考える。


参考文献

  1. American Diabetes Association Professional Practice Committee. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026. ADA
  2. American Diabetes Association Professional Practice Committee. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes—2026. ADA
  3. Umpierrez GE, et al. Randomized study of basal-bolus insulin therapy in the inpatient management of patients with type 2 diabetes (RABBIT 2 trial). PMID: 17513708. PubMed

本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個別患者への適用は、最新の電子添文・ガイドライン・患者背景・施設ルールを確認して判断してください。

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